さぁ、懐かしい人や
思い出の地を巡る隠岐旅へ

隠岐の古典相撲を題材とした、主演映画『渾身』。
その舞台である隠岐諸島へ、久々に旅をする。
撮影のことは今でもよく覚えているが、深く心に残っているのは、
島の人の笑顔、人情、おもてなしの心、そして雄大な自然美である。
刻一刻と変わる海や空の表情を見ているだけで、心が癒されていた。
もう一度隠岐へ、あの空気を吸いに。

桜並木が美しく、清々しい隠岐神社

島後どうご」と呼ばれる隠岐の島町から、「島前どうぜん(中ノ島・西ノ島・知夫里ちぶり島)」へはフェリーで渡る。今日は風が強く、フェリーがひどく揺れている。波に身を任せていると、大海原では人間がいかに小さいかを思い知らされる。

海士あま町(中ノ島)の菱浦港へ着いた。海士町も映画『渾身』の撮影でお世話になった地である。この島で訪れたいところは「隠岐神社」。撮影の合間に訪れ、とても清々しい気持ちになったことを覚えている。

隠岐神社は承久の乱で敗戦し、隠岐に流された後鳥羽天皇が祀られている。後鳥羽天皇と言えば『新古今和歌集』編纂の命を出した天皇でもあり、歌人としても名高い人物。流罪になった天皇とは言え、島民は快く迎えお世話をし、天皇も島で700首もの和歌を詠んだように、海士の人との島での暮らしを楽しんだに違いない。

鳥羽天皇の風流さを表すかのように、隠岐神社にも品格が伺える。神社の参道は桜の木が連なり、花が散ると玉砂利の参道は桜色の絨毯になるという。参道を進むと、堂々たる隠岐造の本堂が見えてきた。境内は広く、とても厳か。それを守っているかのように森が包みこんでいる。神社の横にある御火葬塚には天皇の御遺骨の一部が祀られているそうだ。本殿に手を合わせ、隠岐旅の安全を祈願した。

映画『渾身』のロケ地、
英明と琴世の家へ

海士町には、映画『渾身』のロケで主人公・英明と娘の琴世が暮らしていた家がある。琴世とご飯をつくったり、寝るシーンを撮ったり、この家で撮影したシーンは今も鮮明に覚えている。この家から見える海や漁火のロケーションが好きだった。すぐ近くの波止場で撮影の合間に釣りもした。そう、ここはクランクアップの場所。皆から「おめでとう」と花束をもらい嬉しかった半面、撮影が終わる淋しさもあった。

今も変わらずその小さな家の佇まいは残っていた。現在は、島民が暮らしているらしい。入ることは出来なかったが、家族の温かいシーンを撮った心温まるロケ地だった。

脂ののった隠岐牛を食らう

そろそろ昼の時間になる。隠岐は新鮮な魚介類もおいしいが、島の地元飼料で育った「隠岐牛」も絶品である。昼は菱浦ひしうら港前にある「隠岐牛店」でいただくことにした。

店内に入ると焼き肉の匂いが漂い、一層お腹が空いてきた。さっそく隠岐牛の三品盛焼き肉を注文。目の前の鉄板で、霜降りの隠岐牛を自分の好みの焼き加減でいただく。肉の脂と旨み、肉とタレの絶妙な相性は白米がどんどん進む。大満足のランチとなった。

さて、次は島前内航船で知夫里島へ渡るとしよう。

知夫里島ちぶりじま
自然の中で生かされている

遠くで牛の鳴き声がしている。ここは知夫村(知夫里島)の赤ハゲ山。知夫里島は隠岐4島の中でも一番「島」らしいと思う。「人が自然の中で生活させてもらっている」という感覚だ。なぜなら車1台分しか幅のない道には、いたるところに牛が歩いたり、寝そべったりしている。その牛が去らないと車は進めないのだ。牛が優先なんて東京ではまず考えられない。というか、牛は道にいない。しかし、ここでは車が「異物」であり、山の草を求めて歩いている牛の方が、あるべき自然の姿なのである。

赤ハゲ山の思い出は、映画『渾身』で、ジョギングをしているシーンを撮った。まだデビューして1~2年の頃だったので、何も分からず、ただがむしゃらな時だった。そのときに、この壮大な大自然の中を走っていると、悩みが吹っ飛び、しっかり映画と向き合おうと思ったことを覚えている。そう、ここが分岐点だったのかもしれない。

大自然の中で、
ゆっくり釣りを楽しむ

西ノ島町(西ノ島)の別府港へ到着した。ここでは思う存分「釣り」をする予定だ。そのために、はるばる釣り道具一式を持参してきたのだ。もともと小さい頃から川釣りをしていたが、最近はバス釣りにハマっている。映画『渾身』の撮影時も、時間が空くと海に竿を垂らし釣りを楽しんでいた。

「最近めっきり釣れなくてね。今日もどうだか…」

西ノ島町には釣りの師匠がいる。穴場を教えてもらいたくて事前に連絡をしていたのだ。シーバス(スズキ)を狙いたいので、川が流れ込む岩場の海岸へ行ってみた。

風が強く波も荒い。
釣りの醍醐味はやっぱり大物を釣ること。それを想像しながら、大自然に囲まれて釣りをするのは最高の気分だ。特に隠岐はワクワクする。

しかし、今日は一匹も釣れなかった。残念…。でも、それが釣りだ。
隠岐の自然は優しいだけではない。色んな表情を見せてくれる。
さて、日も落ちてきた。摩天崖がある国賀海岸へいってみよう。

摩天崖まてんがいの夕景に魅せられる

摩天崖に立つ。頭上には天空、パノラマに広がる海や草原。馬や牛が普通にそこにいて、警戒心もなく近寄ってくる。非日常の感覚。自分だけが、この景色を独り占めしている気持ちになる。草原に寝そべり胸いっぱいに空気を吸い込む。隠岐に来るといつも思うのだが、空、大地、海、風…全ての自然からパワーをもらっていると感じる。ぼーっと空を眺めていると、次第にオレンジ色に染まりはじめてきた。夕陽の時間だ。

ここは360度、どこにいても海が見えるので太陽を探すのは簡単だった。太陽がゆっくりと水平線に吸い込まれていく。まるで燃え落ちていくように紅い。夕陽が沈み、残照が広がった。どことなく淋しくなったのは、沈んだ太陽のせいじゃなく、隠岐の旅が終盤を迎えていたからだ。

感謝の思いを紙テープにのせて

帰りは西ノ島町の別府港からフェリーで本土へ向かう。あっという間の旅だった。映画『渾身』でお世話になった人たちに出会え、再びロケ地を訪ねることができて、本当に楽しかった。1つだけ心残りなのは、シーバスが釣れなかったこと…。リベンジしに絶対また来よう。

「翔くーーーん!」

遠くで声が聞こえた。フェリーのデッキに出ると、釣りの師匠とその家族の人たちが見送りに来てくれたのだった。映画のワンシーンのように、紙テープを手渡され、波止場にいる皆と繋がる。フェリーが岸壁を離れていくと色鮮やかな紙テープが風に流れていく。

「また来てね。待ってるよーー」「元気でね。頑張ってね!」

皆さんから声が飛ぶ。家族の一員であるかように、激励叱咤してくれている。

ありがとう。また来ます。本当に、ありがとう。いつまでも、いつまでも手を振っていた。

海士町へ

[1] 隠岐神社

[1] 隠岐神社

[1] 隠岐神社

[2] 英明と琴世の家

[2] 英明と琴世の家

木路ヶ崎灯台

知夫島へ

[4] 赤ハゲ山:知夫村

[4] 赤ハゲ山:知夫村

[7] 国賀海岸

[7] 国賀海岸

[7] 国賀海岸

[7] 国賀海岸