さぁ、懐かしい人や
思い出の地を巡る隠岐旅へ

隠岐の古典相撲を題材とした、主演映画『渾身』。
その舞台である隠岐諸島へ、久々に旅をする。
撮影のことは今でもよく覚えているが、深く心に残っているのは、
島の人の笑顔、人情、おもてなしの心、そして雄大な自然美である。
刻一刻と変わる海や空の表情を見ているだけで、心が癒されていた。
もう一度隠岐へ、あの空気を吸いに。

隠岐到着
「隠岐ユネスコ世界ジオパーク」の
ナゾを探しに

島根県の出雲縁結び空港から約30分、隠岐の島町にある「隠岐世界ジオパーク空港」に到着した。今日の隠岐は風が強い。

以前、隠岐に来たときと明らかに違うのは空港の名前だ。当時ついていなかった“ジオパーク”とは一体何なのだろう。

その謎を探りに、まずは隠岐世界ジオパークビジターセンター「隠岐自然館」へ。

館内に入ると巨大魚のはく製や樹齢2千年の杉の枝、昆虫の標本などが目を引く。目玉は隠岐の島町でしか確認されていない珍しい「オキサンショウウオ」。サンショウウオと聞いて大きいものをイメージしていたが手のひらサイズでかなり小さい。一般的にサンショウウオは流水性と止水性の2つに分類されるそうだ。オキサンショウウオは渓流(流水性)に棲んでいて、次に池(止水性)に棲むタイプに進化し、また渓流の環境に戻ったのだという。いわゆる「逆戻りの進化」をしたので、天然記念物になったそうだ。 そのオキサンショウウオがに生息していると聞き、以前、島の人に連れて行ってもらった「壇鏡の滝」へ再び足をのばしてみることにした。

島後のパワースポット
壇鏡だんぎょうの滝」へ再探訪

「壇鏡の滝」に行くには、クネクネした山道を車で上っていく。隠岐は海のイメージが多分にあるが、隠岐の島町は綺麗な水を育む山もしっかり存在する。

駐車場に到着した。そこは参道の入り口になっていて、鳥居の前には「壇鏡の夫婦杉」が天高くそびえ立ち、神聖な雰囲気が立ち込めている。参道を進むと、道に沿うように清らかな小川が流れていて、ここにオキサンショウウオがいるらしい。しかし、あの小さな姿はそう簡単に見つからない。希少な生き物でもある。そっとしておき自分は滝を目指すことにした。

奥に進むにつれ空気が凛と引き締まり、心もち肌寒くなった気がする。土を踏みしめながら杉並木の参道を歩くこと5分。右を雄滝、左を雌滝と呼ぶ、左右に分かれた2つの滝が見えてきた。

40mの高さから落ちる滝は、水量が少ないため風にそよがれ、まるで水のカーテンのようにヒラヒラと揺れている。その滝の裏側には神様が祀られるほこらもあった。

山の緑を背景に、滝から落ちる水しぶき。この景色はずっと眺めていても飽きることがない。水の神秘に魅せられ、すっかり長居をしてしまったが滝の効果だろうか、心なしか帰りの足取りが軽くなった気がした。

踏み固められた島男たちの土俵

映画『渾身』の撮影地「釜屋相撲場」に到着した。隠岐は子どもの頃から相撲をとる習慣があり、地区ごとに相撲場がある。

ここは撮影以外でも、相撲の稽古をつけてもらった思い出深い場所だ。土俵の上に『心技体』と掲げられた文字。この言葉が今も心に沁みている。

そこへ相撲を教えてくれた師匠であり、『渾身』の主人公・英明のモデルでもある池田晃さんと、正三役しょうさんやく大関の佐竹真人さんが駆けつけてくれた。2人の顔を見ると、当時のことが走馬灯のように思い出される。

「翔君はな~、力はあったけど、相撲はまだまだだったな」

「一緒に稽古をしていると仲良くなってきて、途中から島の皆に俳優じゃないと思われていましたね」

池田さん、佐竹さんも当時を懐かしんでくれているようだ。撮影本番にも関わらず、リアルなダメ出しが飛んでいたことも今は懐かしい。

撮影時は島で暮らし、いつも島の人たちと一緒にいたので、皆が自分を島人のように接してくれていた。

今思うと主人公の英明と同じように、自分も相撲をとることで、次第に島に馴染んでいったのかもしれない。

「そうそう!水若酢みずわかす神社の本殿屋根の吹き替えで古典相撲があるから、また相撲をとるぞ!」

「相撲の若い衆を集めるから、夕ご飯を一緒に食べよう」と池田さん。

お言葉に甘え、懐かしい顔に会いに行く約束を交わした。

古典相撲の聖地「水若酢みずわかす神社」へ

隠岐国一宮「水若酢神社」。参道を歩き本殿に向かう途中に立派な土俵がある。そこには『2013年公開 映画『渾身』隠岐島ロケ記念』と書かれた大きな柱が一本、供えられていた。

水若酢神社では昔から古典相撲が行われ、『渾身』の古典相撲シーンもここで行った。この柱は『渾身』に登場する主人公・英明が2番勝負の途中で倒れたため、賞品としてもらうことができなかった『行司預かり柱』だ。

今でも、相撲のシーンは良く覚えている。エキストラで島の人たちが千人くらい集まり、本当の古典相撲のような勢いで大盛り上がり!気合いの意味も込めて力士に大量の塩をまくのだが、その量は半端なく、肌が刺さるように痛かった。

撮影なので清めの酒は水が入っていたのだが、どうも途中から本物の酒になっていたらしい。撮影であっても島の人にとって「祭り」には酒は欠かせない。

そうだ、池田さんへの手土産に隠岐酒造の日本酒を買いに行こう。きっと喜んでくれるはずだ。

隠岐酒造に向かう途中、相撲の練習に励む子どもたちの姿をみた。地区ごとにある相撲場で夕方練習し、その後は共に夕食を囲む。撮影の合間には島の人々と同じように過ごさせてもらい、数ある思い出の中でも特に印象に残っている。

すみきった味わい隠岐誉おきほまれ大吟醸

日が暮れてきたころに隠岐酒造に着いた。

『渾身』の撮影時に隠岐酒造の「隠岐誉」にはまった。東京へ戻ってからも隠岐の酒をたしなんでいたため、隠岐酒造の酒は全種飲んでいると自負していた。しかし…「これはご存知ですか?隠岐誉の大吟醸八年斗瓶囲いです」と高宮社長。名前もラベルもはじめて見る隠岐誉。さっそく試飲させてもらった。

旨い。

バランスが良い酒とはこのことを言うのだろう。まさしく蔵人魂の結晶。日本酒はその地でつくられた米と水、そして杜氏の技に大きく左右される。

「仕込み水を汲む場所は息子にも教えてないのですよ」

こだわりぬいた酒造りの真髄をみた。

早速、その大吟醸を購入した。池田さんへ、そして自分にも。

隠岐流のおもてなしに
心がほどける

「翔くん、飲んで飲んで!」駆けつけ一杯のように、池田さんから酒が手渡される。

夜になると相撲をとる若い衆が大勢集まってくれた。早くから待ってくれていたようで、すでに一杯入っていた。

テーブル中央の焼き網には、アワビやサザエ、隠岐牛が豪快に焼かれ、いい匂いが漂っている。もちろん傍らに一升瓶が置かれ、島の男らしくコップに酒がつがれている。

一番食べたかった池田さんの奥さんの作った「爆弾おにぎり」が目にとまった。「爆弾おにぎり」とは板状の岩のりを焼き、醤油をぬって巻いたおにぎりで、映画の撮影で食べた時、とりこになった。香ばしい海苔の香りと絶妙な醤油加減がたまらない。自分の中で「隠岐の味=爆弾おにぎり」になっているほどである。

池田さんや若い衆とは久々の再会であるが、思い出話をしたり、近況を話したり、まるで都会から戻ってきた島人のように迎え入れてくれて、話が尽きない。「ヒゲ、はやしたな!」と島の人の突っ込みも容赦ない。

酔いも回ったところで『隠岐相撲甚句じんく』の余興がはじまった。

♪「相撲はヨ~神代に始まりましてヨ~~今じゃヨ~日本の国技となりてヨ~…」

間髪を容れずに皆が順に歌っていく。歌を知らなくても、替え歌でも、そこにいる皆が一人ずつ歌う。これが隠岐の宴。

「翔君、歌がうまいな~」。隠岐の幸と地酒、歌に笑い。無礼講とはまた違う「あるがまま」の付き合いが心地いい。

こうして夜も酔いも、島の方との久々の親睦もどっぷり深まった頃、名残惜しく宴がお開きとなった。

隠岐旅1日目が終了。朝から夜まで満喫した旅は、まだはじまったばかりであった。

隠岐世界ジオパーク空港

[1] 隠岐自然館:隠岐の島町

[1] 隠岐自然館:隠岐の島町

[2] 壇鏡の滝:隠岐の島町

[2] 壇鏡の滝:隠岐の島町

[2] 壇鏡の滝:隠岐の島町

[3] 釜谷相撲場:隠岐の島町

[3] 釜谷相撲場:隠岐の島町

[4] 水若酢神社:隠岐の島町